金メダルをとるフィギュアスケーターが実践していること|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第95回】
「トップアスリートのケアの仕方を教えて下さい」という質問がよくありますが、答えは「特別ありません」です。同じ人間の体なのでオリンピック選手に特別することはないのです。むしろ基本中の基本を理解してもらうまでしつこく説明します。
理由は大きく2つあります
① 基本中の基本が最重要であることを理解し、正確なコンディショニングをしないと、ハイレベルな練習をする意味がないから。
→ 練習が上手くいかない場合、原因は「技術的問題」か「体が動いていない」のかということを、体が完璧な状態でないと私の方では判断できません。そして、コーチに至ってはもっと判断ができないのです。
② オリンピックのタイミングにピークをもって行くのを阻害する、リスクが一番高い怪我を防ぐため。
→ 転倒などのアクシデントは防ぐことができませんが、怪我をするリスクはある程度防ぐことができます。
「三日休んだら取り戻すのに1ヶ月かかる」
「足を疲労骨折したら一人前」
「生理不順も当たり前」
かつてスケーターは、毎日練習しなければならないと言われていました。このような言葉を少なからず耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。こんな昭和な感覚が信じられていたのは驚きですが、実はそれほど昔の話でありません。
いまだにこのような呪縛に囚われているアスリートやコーチもいるのは事実です。このような迷信からは脱却してもらいたいと思います(私自身、前述のようなことを主張する有名コーチと言い合いになり、主張を通して選手を水曜日を完全に休ませ、結果として体の弱いスケーターをチャンピオンに導いた経験もあります)。
さまざまな情報が溢れる今日、アスリートを良い方向に導く方法は人それぞれなのでオリンピック選手向けの特別メニューなど存在しないのです。
しかし、日々の練習で要求される動きは以前より高いレベルにあるので、常にベストなコンディションを保てるような努力が求められます。痛みがないだけでなく、アクシデントに見舞われても怪我をしないくらいの、余裕ある良いコンディションを作り上げるために、最低限として基本的部分は見逃さないように心がけるべきです。
特にオリンピックにおいては4年に1度しかない機会なので、そこにピークを合わせなければなりません。その1番のポイントは、体のコンディションにあります。
オリンピックに向けた体のコンディショニングプランとは
オリンピックをターゲットにしている選手は10代が多く、成長期に気をつけるべきは、数年後を見据えたコンディショニングプランです。これまで出会ってきた選手の多くは14~15歳くらいなので、まだ大きな怪我の経験もなく、本人はコンディショニングの大切さを全く理解していません。
勝負の17~18歳くらいに向けてピークに持っていくためには、ボディーサイズの変化に伴い練習からくる体へのダメージなどの増加も想定しながらストーリーを組み立てます。
勝負の年の2~3年前から、体に対する認識をしっかり持ってもらうことが、良い練習や良い結果に繋がるのです。本人の認識と日々のコンディショニングがいかに重要か、この時点でも理解いただけたかと思います。
では、体に対する認識とは具体的にどう言ったことを指しているでしょう
簡単に言うと、痛いとか痛くないとか、張った感じがする、など主観と感覚で判断するのでなく、関節可動域などにより明確な基準をもって判断することを指します。
このような方法を取ると、練習でうまくいかない動きも、多くの場合は体が動いていないだけであるという事実に気づくことができ、ひたすら練習量を増やせばいいという概念や無駄な練習そのものをなくすことができ、体への不要な負担を減らすことができるのです。