世界でエンタメ三昧 #28
ブシロード、革新的な組み合わせによるエンタメメガベンチャー
ご無沙汰しておりました、バンダイナムコ改めブシロードの中山です。しばらく休載しておりましたが、実は9月よりブシロードという同じエンタメ業界の会社に転職となり、改めてゲーム屋三昧を再開することになりました。隣で連載している岡本さんコラムの50?60回?には全く敵いませんが、27回も連載していると読者の方々にも愛着が沸くようで、「あれ、最近書いてなくない?」「ゲーム屋やめちゃうの?」といった声を多数(3名ほど)頂きました。いいえ、やめません!しばらく断筆してきましたが、ついに筆をとる決意を致しました。
今回は私の新天地となるブシロードという会社についてちょっとお話したいと思います。山一證券から一転してブロッコリー(2001年ジャスダック上場)を創業した木谷高明が二度目の起業として2007年からはじめた会社です。会社名はちょっと想像しづらいところがあるのですが、一社目も「いや、だってブロッコリー好きだったから」というお茶目な感じで名前をつけられる方なので、二社目も一般的な会社名にはなっておりません。
ブロッコリー時代にアニメ化を熱望していた「熱風大陸ブシロード」にちなんで、その夢を託して「ブシロード」とつけたわけです。海外で事業するうえで“Bushido”といえば歴史・格式ある商標みたいなものだし、とてもいいな!という感じです。ちなみに『武士道』は頑張って英語で読みましたが、いまだかつて日本人であれほど美しい英語描写ができる人はみたことがありません、、、初心者にも伝わる素晴らしい本です。おすすめです。
さてそのブシロードの事業ですが、最初の5年は「ヴァイスシュヴァルツ」やDAIGOのCMで有名になった「ヴァンガード」などリアルなトレーディングカードゲーム(TCG)を主軸として100億円規模に成長してきました。2012年ごろからの直近5年間は海外化・多角化の時代です。主軸TCG海外展開と同時に、新日本プロレスでスポーツエンターテイメントへの参入、「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」「クレヨンしんちゃん」といったモバイルゲーム事業、ブシロードミュージックでラジオ・音楽・グッズ販売、ブシロードメディアで出版・代理広告業などキャラクタービジネスにも精力的に展開します。
稀なのはこの後半5年の多角化が成功しており、すでに設立7年目で連結売上200億円達成、10年目となる今年度にはさらに飛躍する見込みです。収益性も高く、こうした売上規模がありながら、従業員は海外・関連含めて約250名、他社と比べるとびっくりするほど少数精鋭の希少なエンタメ業界の成長メガベンチャー企業なのです。
この会社の強みは「成長理由の分かりにくさ」にもあります。私のやってきたモバイルゲーム7000億円市場に比べると、TCGの800億円市場は規模もさながら、ユーザー規模はさらに小さく、本当に見えにくい業界です。「Magic the Gathering」「POKEMON」「遊戯王」など昔からの大手ブランドが寡占しており、ユーザーは10代が中心で、マス層とは言いづらく、さらには販売店を経由した販促商流は、とても新規参入に向いた産業とは言えません。
それにも関わらず07年に彗星の如く現れ、あっという間に三番手・四番手の位置に入りこんだ理由は、実はいまをもって謎が深いです。他社はほとんどがキャラクターIPをもちこんだ大手企業ばかりの中で、ブシロードは唯一のTCG専業の新興メーカーであったといえます(現在は多角化・売上規模から前者に近づいてきている感じですが)。
そして何より注目すべきは12年に買収した新日本プロレスは44年の歴史をもち、アントニオ猪木をオーナーとした典型的なタニマチビジネス。他のスポーツビジネスも例外ではありませんが、「経営/事業」という観点ではあまり光があたって産業でもあります。そうした産業に2012年に参入し、たった4年半で30億を超える売上、過去最高益まで持ちあげることに成功。
http://toyokeizai.net/articles/-/120810
こうした記事にも出ているように、日本を投影してしまうようですがバブル後に長く苦しんだ停滞の20年を、見事なまでに復活させています。
さらには私の専門領域でもあるモバイルゲーム事業。参入とほぼ同時期に立ち上げた「Lovelive!! School Idle Festival」は、突然日本で売上トップ10に入った大ヒット作。当時は注目されていなかったアイドル×音楽ゲームという組み合わせを先駆け、現在では10本以上ものタイトルがこのゲームをベースに追随し、あっという間にレッドオーシャンジャンルとなりました。結構個人的には「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 炎のカスカベランナー!!」が世界観の再現が素晴らしく、うちの5歳児もはまりだしてしまっており、お気に入りです。
このように新興市場を切り開いたというよりも、むしろ既存の成熟市場において、角度の違う切り込み方で特異な成長をみせ、現在は「TCG」「モバイルゲーム」「スポーツ」「キャラクター」の四本柱で主力事業をまわしている、というのがブシロードという会社になります。エンタメ業界というのは、僕が言うのもなんですが、本当に謎に満ちています。なぜ売れるのかもわからないし、経営実態をみてみないと地名度と経営盤石度がかい離していることも多々あります。こうした「従順ならざる不可解な産業」で生き抜くスキルというのはおよそ一般的な企業の生存要件とは異なってきます。自分はいまそれを学ぶ旅に、もう引き返すことのない旅に、入ってきているのだなと思います。来月から、またよろしくおねがいします!
中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのシンガポール法人にて、新規事業立ちあげ中。昨年までバンクーバーにてモバイル開発スタジオを立ちあげ、モバイルゲームを複数リリース。”Pac-man 256″ でApple, Googleの2015 Best Gameを受賞。リクルートスタッフィング、DeNA、コンサルを経て現在 に至る。東大社会学修士、McGill大学MBA修了。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)他。