イタリア:エルバ島(2)|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第104回
エルバ島の昔と今

トスカーナ州に属するこの島は現在ほとんど観光でしか知られていないが、実は昔は有名な鉱物資源の採掘場だったのだ。主要都市ポルトフェラーイオ(Portoferraio)の名前の由来は「porto=港、ferro=鉄」から来ている。良質の鉄を含む慈鉄が豊富だったためヨーロッパの国々が統治権を争ったのも理解できる。安価な南アメリカやアフリカの鉱石に押され1981年に閉鎖されるまでエルバ島の慈鉄はイタリアやヨーロッパ各地の製鉄所に輸送されていたという。そして島の運命は観光へと変わった。地域の役目は時代とともに否応なしに変えられてしまうのが地球の摂理らしい。
エルバ島の観光客

今日のエルバ島はイタリア人に人気の夏のバカンス地だ。地中海に位置し、北はリグリア海と南はテイレニア海に面している。シチリア島やサルデーニャ島ほど知名度はないが外国客など必要もない程イタリア人で混み合うのだとか。海水浴ができる場所は島全体に200箇所ぐらいある。シュノーケリングもポピュラーで透き通った海に潜って都会の生活を忘れるのも最高の気分に違いない。島産のワインも人気があり赤、白、ロゼが揃っている。本土から10㎞(船で1時間)とそれほど遠くないこの島はリピーターが多いはずだ。混雑を避けたいなら、7、8月は外した方が良さそうだ。私たちが訪れた晩秋は超スカスカ。ただしバスは不便なので島巡りはレンタカーがお勧め。
要塞都市、ポルトフェラーイオ(Portoferraio)

島に要塞がある。16世紀メディチ家のコジモ一世がオスマン帝国の襲撃に備えてエルバ島を要塞化し、それがこの街を繁栄させ今に至ったと伝えられる。壁には鉄が入っているから頑強なのだとか。要塞から一望する地中海で丸見えの敵の船にはどんな作戦があったのか。要塞下に続く民家の坂道は長年の歩行で磨き抜かれた石畳、石好きの私は下を見ているだけでも飽きないくらい美しい。

街の人口約1万2千人(島全体では約3万人)は日本の屋久島全体の人口とほぼ同じだが、島の大きさは屋久島の2分の1といえば、この島の人口密度の高さがわかる。人々は古い建物を余すところなく使って住み着いているように見えた。老人ホーム、幼稚園、集合アパート、外観はどれも日本やカナダの感覚からかなりかけ離れていて興味深い。
港町、ポルトフェラーイオ

レジャーボートが浮かぶコンクリートの岸壁を横目にレストランやカフェ、バールの立ち並ぶ港町をのんびり歩く。タクシーの運転手に勧められたシーフードレストランは大当たりだった。調理された新鮮な魚介類が注文できるのでピザはやめておこう。街に中華も見当たらない。島は先代からの住民が多く、移民はないという。

前述の通り街の特徴は石畳の階段が多いことだ。手すりなどどこにもないのでスニーカーでないと危ない。夕日を楽しんだ後、先日無人教会(7月号)で歌った歌姫とバールに立ち寄りエルバ島訪問の祝杯をあげた。
最後の夜は海の見えるホテルで過ごす。朝食の後、バルコニーでコーヒーを飲みながら真っ青な海を眺める至極の時間。海は底まで見えそうなくらい透き通っている。夏に来ていればきっとあの青に潜っただろう。
ナポレオン邸宅ヴィラ・デイ・ムリーニ(Villa dei Mulini)

1814年、フランスでルイ18世が即位し王政復興が確実となって退位させられたナポレオンはエルバ島の所有権と生活諸経費を支給してもらう条件で当時フランス領だったこの島に流されて来た。名目は島の統治者。
彼を歓迎する島民たちの絵が彼のサマーハウス(7月号記)に飾ってあった。彼が住むことになったのはこの変哲もない黄色の建物(現在は美術館)。それから約10ヶ月という短い期間だったが彼は島のインフラや関税制度など島の改革に貢献し、その間フランスへ返り咲く野心も持ち続け、数百人の兵を率いて再出陣、失敗。2度目の流刑は南大西洋に浮かぶイギリス領の火山島、セントヘレナ島。妻子が訪れることもなく、孤島で51歳の生涯に幕を閉じた。胃癌だったという説もあるらしい。
短いエルバ島の生活だったがナポレオンは死後もその名故に島の経済に貢献し続け、その偉大さを後世に伝えている。
(次回は日本)

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
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