ベトナムへ(3) ハノイ歴史散策|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第113回

文廟(孔子廟)―日本にも

「学問の神」、中国の孔子(紀元前552年生)を祀るために1070年に創建されたのが文廟。ベトナムで最初にできた大学「国子監」としても知られる。石亀が石碑を背負っている。李(リー)王朝で採用された科挙試験(官吏登用試験)合格者1304人(1442〜1779年)の名前が彫られた82の石碑は世界遺産のなかでも歴史的に貴重な手書き文書、書籍、写真、映画に登録される「記憶遺産」になっている。

彼らの多くは学者、政治家として国の発展に功績を残したという。ハノイ市の誇りでもある文廟の内部はすべて漢語表記。市内の中学生らが卒業式のあと、記念写真を撮りにガウンをまとってやってきた。私には漢語の意味が想像できたがベトナムの若い人たちは漢字が分からないのが残念だ。

日本も5世紀に「論語」が伝来し、聖徳太子や江戸時代の武士、庶民の間に儒教精神が受け継がれ親孝行、礼儀、先祖供養の習慣が徳とされてきた。ちなみに重要文化財になっている日本三大孔子廟は足利学校(栃木県)、閑谷学校(岡山県)、と日本最古の多久聖廟(佐賀県1708年)があるがみな都会から離れていてベトナムほど一般に馴染みはない。
ホーチミン廟―建国の父は生涯独身だった

遺言でホーチミン(1890-1969)は「葬儀は質素に」「遺体は火葬し、北部、中部、南部の三か所に分けて埋める」と書き残したそうだが、遺言は無視され遺体は大理石の巨大なホーチミン廟に安置されている。
彼のレジュメは凄い。フランスの植民地下の貧しい家庭に生まれ、儒教学者の父の影響で中国語を学び、官吏養成学校で仏語を学び、フランス、アフリカ、ニューヨーク、ロンドンで肉体労働をしながら世界を知る(英語もできた?)。儒教でいう自己開発に徹底した人物だ。パリを拠点にベトナム独立請願を世界に向けて発信し注目を集めた。
30年後にベトナムに戻った時は日本軍が進駐していた(ベトナム帝国)というから心境は微妙だったはず。日本が降伏し、第二次大戦終結とともに彼は独立宣言するも連合国に無視され、1954年のジュネーブ会議で国は南北に2分されてしまう。
そしてベトナム戦争が勃発。アメリカは50万もの兵力を送り込み戦争は泥沼化。アメリカの世論も厳しく、1973年の米軍撤退の嬉しいニュースが報道されたのは残念ながらホーチミンが心臓発作で亡くなったあとだった。北部は南部を奪還、20年後のことだ。
大量の国民が命をかけて海に脱出し「Boat People」という言葉が生まれた。南部のサイゴン市は初代国家主席だったホーチミンにちなんでホーチミン市となり、彼は今でも市民に崇められている。生涯独身を通したので子孫はいない(隠し子くらいいそうなものだが)。
子宝祈願の一柱寺

ホーチミン廟から250mのところにある小さな蓮池に立つ一柱寺。子宝に恵まれるというご利益があり、狭い階段を一列になって登り一人づつ参拝するようになっている。ベトナムの歴史文化遺産としても最も崇敬されている仏閣遺跡の一つだ。
土の上に建てられた寺と違い、蓮池からハスの花のように一本の柱で支えられている構造のユニークさでも有名。
1049年、リー(季)王朝の皇帝が世継ぎを望んでいたところ観音菩薩が子供を抱いて現れたという夢を見たことが源。その後子供が授かったので、蓮の花に見立てた寺を建立して女神に奉納したと言われている。子供を授かりたい人にはパワースポットかもしれない。
ハノイ大教会(St. Joseph’s Cathedral)

ベトナムの宗教は仏教徒(儒教と道教が混じっている)が人口の約8割で一番多く、それにつづくのが約1割のカトリックとプロテスタントのキリスト教、残りは民間信仰、新興宗教、とされている。現実には無宗教が一番多いという説もある。信者でなくても正月にお供えをしたりするところは日本も同じだ。
ベトナムは憲法で宗教の自由を認めており、国家としては宗教をもたない。ベトナム大教会はベトナム最大でハノイ市の人気ショッピング街から比較的近い距離にあり、近辺にレストラン、カフェが並ぶ。待ち合わせにいい場所だ。フランスの植民地時代に18〜19世紀のネオ・ゴシック建築としてパリのノートルダム大聖堂をモデルにして建てられた。正式名称はセント・ジョセフ大聖堂。

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
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