ベトナムへ(2) ハノイ近辺の世界遺産|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第111回

ハロン(Ha Long)湾

世界遺産を9つ持つベトナム。自然遺産(2)文化遺産(6)と複合遺産(1)。ハロン湾はその自然遺産の一つだ。ベトナムの観光資料のほとんどの表紙にこのハロン湾の光景が載っている。
ハノイ市から東へ海岸に向かって走ること2時間、見慣れた景色がみえてくる。中国の水墨画によく出てくる切り立った石灰岩の島々が約3000個も林立しているのがこの湾の特徴だ。人が住むには険しすぎ多くは無人島。中には特殊な形で「闘鶏岩」「犬岩」と名前のつけられた奇岩もある。南シナ海へ続くバックボ湾(トンキン湾)にあり、海域は中国に接していてベトナムは歴史的に良くも悪くも中国の影響が強い。

食事付きで約3時間のクルーズ船もあれば宿泊付きのクルーズ船もある。私は日帰りクルーズ船でハロン湾をめぐったが、写真ではあえて避けられている大量の観光船が行き交っていることに驚きを感じた。夕暮れの静かな海に浮かべば詩の一句ぐらい出てきそうな自然の造形美ではあるが。嬉しかったのは海鮮ランチだ。
ハロン湾のティエンクン(Thien Cung)洞窟

無数の島と同時にハロン湾には洞窟がある。私の船はハロン湾でも有名なダウゴー島にあるティエンクン洞窟へ立ち寄った。1万1000年〜78万年前に地下のマグマの熱で気化されてできたと言われる巨大な洞窟空間だ。一種の火山活動らしい。鍾乳洞は海抜20m、中は歩きやすいように照明や階段がつくられていて40分ほど歩いただろうか。アニメの世界の登場人物になったような奇怪で現実離れした山の穴にしばし我を忘れ目だけは見たこともない山の奇形な胃袋をみつめていた。
この幻想的な空間はヘブンリー・パレス(=ティエンクン)というのだそうだがパレスよりは内臓か。出口は入り口と反対の山側。ハロン湾でクルーズ船にのるなら洞窟へ立ち寄るのかどうか確認した方がいい。私にとってはハロン湾のハイライトだった。
バッチャン(Bat Trang)の陶器

ツアーにバッチャン村が入っていなければハノイからバスで40分乗れば行ける場所にある。もともとはレンガ作りの村として始まったが15世紀から朝廷御用達の陶磁器製造の村として栄えたといわれる。日本との関係も古く「安南焼」として安土桃山時代に千利休などの茶人らに愛された茶器がバッチャン産だった。

村には100軒ほどの工房があるが、老舗は6軒ほど。菊や蓮の花、トンボの絵柄は昔から日本人に大変喜ばれ、それが今でも焼き物の代表的な模様になっている。ガイドさんの話によると日本から箱単位で買い付けにくるお客さんもいるとか。そういえばバッチャン焼はネット通販でも買える。新宿には専門店もあるらしい。しかし老舗の店によると、刻印がなければ本物ではないのだ、と。私はお土産に急須敷(壁飾りにもなる)を何枚か買い求めた。一応刻印を確かめて。
店内にホーチミンの絵と一緒にオバマ大統領、日本の天皇陛下の似顔絵が飾ってあったのには苦笑した。ここは資本主義的共産主義国家か……
タンロン(Thang Long)遺跡(旧ハノイ城址)そして地下壕!?

世界遺産(文化遺産)の一つで中国に支配されていた時代から独立までの遺跡がハノイ市内にある。11世紀から15世紀までの李(リー)王朝で栄えた政治都市ハノイの歴史が主。
2005年までは軍の管轄下であっただけあって今でもいかめしい戦闘車が入り口にあった。入域制限付きで一般公開されている。トレードマークの正門、ドアン(端)門は少々厳しいが威厳があり、楼閣に登ると眼下にひろがる広大な敷地に栄華を極めた当時が想像できそう。
一部はまだ発掘中で整備されていない。ミュージアムには歴代の王朝リストがあり発掘された城の鯱鉾は綺麗に保管されていた。後年のフランス占領下の大砲やフランス軍が使っていた建物があったのも興味深い。

ベトナム戦争中(1955-75)ベトナム軍が作戦会議をした地下壕が敷地内にあり、見学できた。15㎡ほどの狭い部屋で地図を広げて戦略をねり、何台もある電話器で各部隊と忙しく連絡をとりあっていた当時が生々しく瞼に浮かぶ。外には12日間のハノイ抗戦時の米軍、ベトナム軍の各爆撃機の数字がデカデカと比較表で張り出してあった。

1973年に米軍の侵略戦は失敗に終わり、ベトナムは1975年に独立。50年後アメリカの大統領の絵が店に掛けられると誰が想像しただろうか。

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
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