おとなの箱根旅(2)|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第110回
箱根関所

芦ノ湖岸の元箱根港からバスで数分のところに関所がある。江戸時代、小田原藩から出向してきた役人たちが大番所や住居として使った建物や足軽番所、罪人を一時的に拘置する獄屋がある。関所が明治2年に廃止され、復元されたのは2009年頃だが当時のままの技術と広さを使って作り上げられた関所は威風堂々としたものがある。

健脚ならば、高台の遠見番所まで行ってみよう。芦ノ湖を一望できる番所からは航海禁止の湖を不法に渡ったり、街道沿いからの不法侵入者がいないか監視していた。今日、芦ノ湖は観光海賊船が外国の観光客をどっさりのせて湖を自由に往来しているのを関所からながめるのはちょっと滑稽ではある。足軽番所を見学していると説明員が近寄ってきて、写真を撮ってあげましょうと言うなり私を獄屋に入るよう勧めたのには面食らった。
関所の江戸口御門をでると箱根関所資料館に続く道がある。タイムマシーンで江戸時代にもどった感じでのぞいてみる。取り締まりの様子がよくわかり、ことに女人には厳しかった関所、あの時代に生まれていなくてよかった、と胸を撫で下ろし現実に感謝。人間の運命を感じさせる時間だった。
強羅(ごうら)公園の茶席

大正3年(1914)小田原電鉄が当時強羅地域に住む富裕層の保養のために作った広さ3万6400㎡、標高590mの強羅公園は国の登録記念物になっている。上段が日本庭園、下段が左右対称の整形庭園はフランス式の庭。造園の第一人者、一色七五郎氏の設計によるものだとか。豪華なバラをはじめ四季折々の花が咲き誇り、中央の丸い噴水池に落ちる水の音が雑念を忘れさせてくれる。

庭園の両側には景観を損ねないように建てられたカフェ、レストラン、ギフトショップ、お茶室がある。私は古い門をくぐって、国登録有形文化財に認定された大正時代の茶室、白雲堂茶園の茶席に正座した。名古屋からきていた若夫婦と一緒に静かに抹茶をいただき、一緒に建物の奥も見学もする事ができた。大正時代の茶人の客に対するおもてなしが感じ取れる日本間だ。

立派な野生の山百合に見送られて茶室をあとにし、シメはカフェPicの庶民的カレーライスで。
寄木細工の郷―畑宿

畑宿でバスをおり、ほんの少し坂をのぼると「金指寄せ木工芸館」がある。江戸時代、旧東海道宿場町だった畑宿に住んでいた石川仁兵衛という人が考案した寄木細工が源とされている。昭和59年(1984)に日本の伝統的工芸品に指定され箱根の代表的な土産物として続いている。
この工芸品に初めて私が出会ったのは子供の頃に手にした開け方のわからない謎の寄木の貯金箱。それ以来、互い違いに組み合わせて張り合わせ、削られ、形になったたこの不思議な工芸品にずっと興味をいだいていた。
館内には細工師の金指喜久次氏や弟子らの作品展示および販売をしている。作品の数々はまさにイマジネーションと極端に器用な手先なしには考えられない力作ばかりだった。お試しでコースターをつくった。接着剤がうまく付けられないと仕上がりもパッとしないが自分用のが出来た。
江戸時代の土産物が令和の今日も続いているのは嬉しい。寄木細工が絶えませんように。
成川美術館

元箱根港の山側に立つ成川美術館と書かれた石碑を目印に坂を登ると近代的な大きな美術館の入り口に出る。他の美術館と違うのは半端でない展示場の広さだ。現代日本画の巨匠による大型絵画の数々が堪能できる。これほど多くの現代日本画の大作の展示を私は日本のどこでもみたことがない。
壁いっぱいの一枚の絵、牧進作、「雅趣錦秋」は圧巻。ピンクの桜の花びらが池に渦巻くその下をおよぐ黒っぽい鯉。日本の風景、いやヨーロッパの風景さえも日本画で描かれると油絵と違った優しさが出てくる。洋とは違った和の雅。
洋画にない日本画の色使いや筆さばきを成川美術館がその大きな空間で充分に堪能させてくれる。また箱根に行く機会があったらここは必ずこようと思う場所の一つになった。

ちなみに晴れていれば、ガラス張りの休憩室から眺める芦ノ湖の先に富士山がくっきりと見えるのだそうだ。NHKのお天気予報で映像に使われる場所だと誰かがおしえてくれた。

石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、『久遠に逢う』東京・熊本、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”。PPOC認定会員、日本写真協会会員、AFP、ESL教師。www.makikoishiharaphotography.com
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