第65回「カナダの若者が仕事に就けない!」|カエデの多言語はぐくみ通信
コロナ直後に人手不足となり雇用が活発になったのもほんの束の間。今、カナダの若者が人生最初の仕事に就けない状況になっています。
若者の失業率が高い!
カナダは若者の失業率が高く、カナダ統計局によると、2025年5月の15〜24歳既卒者の失業率は12.2%*で、1990年代以来の高水準です。こちらも高水準のカナダ平均7%と比較しても、かなり高くなっています。同じ年代の学生の失業率は20.1%に達し、彼らは3か月の夏休み中に、飲食業やサマーキャンプで働いて学費の補填をすることが今までの主流でしたが、近年は事情が違っています。
年々若年層の労働市場が縮小し競争が激化しています。カフェにレジュメを置いてくれば仕事が見つかった時代は終わり、若者がなかなか労働市場にデビューできない状況になっています。どうしてここまで若者が仕事に就けないのでしょうか。
高い失業率の原因は?
数百枚のレジュメを送っても仕事に就けない若年層の失業には、様々な理由が重なっています。
【インフレ・金利・関税】
コロナ後のカナダの異常なインフレ、それを抑えるために金利を上げたが、それによって企業や一般家庭が財布の紐を引き締めています。買い物や外食をするたびに高いと感じ、牛肉は高すぎて高嶺の花になりました。不動産価格は少し下がったものの賃貸は高いままです。わが家や友人家族の成人した子どもたちも、物価が高すぎて独身の間は独立できず、何歳になっても親と同居が現代カナダのニューノーマルになっています。
そこに、今年に入ってアメリカとの関税戦争が勃発。「泣きっ面に蜂」状態になり、先行き不安でたちまち企業の採用意欲が低下しました。2025年第1四半期(1月~3月)の求人数は、前年同期に比べて18.1%減少しました。そこに、先日のThe Bayの倒産で、新たに9000人が解雇され求人市場に投げ出されました。
【人口増と人件費高騰】
コロナ直後、トルドー前首相は、毎年30万人前後だった移民の受け入れを一気に毎年50万人に増やし、住宅や医療などのインフラ不足を引き起こし、国民の反感を買って退陣のきっかけを作りました。私もトルドー前首相が、「カナダにどんどん来てください」と呼び掛けている放送を見た時は、「この人何を言ってるんだろう?」と驚いたものでした。人口増による競争の激化と、中には不当に安い賃金で働かされる外国人が増えたことも、若者の就職難に影響しているでしょう。
人件費も上がりました。オンタリオ州の最低賃金は、コロナ前までは11ドル台でしたが、コロナ以後急激に上がり現在は17・2ドルです。レストランメのニューやチップも値上がりしてあまりに外食が高くなり、今では外食を控え、家に人を招いて食事や飲み会をすることが増えました。急激な賃金の上昇で悪循環が起きているように思えます。
【未経験求人の枯渇とAI】
競争が激化すると、求められるスキルや学歴がだんだん上がっていきます。「未経験可」となっている求人にも応募が殺到し、結局経験者を取ることとなり、若者が経験を積めません。
そして、職種に対しそれ以上の高学歴が求められるようになり、今では専門職は修士以上の学歴が普通になっていて、カナダでは日本以上に学歴インフレが起きています。そうなると、大卒では希望の職に就けず、学んできたことと仕事のミスマッチが起きたり、学歴に応じた仕事に就けず、かけた学費の回収や借金の返済が難しくなります。
また、カスタマーサービスやデータ入力、ライティング等の仕事はAIに、倉庫作業や製造業はロボットに取って代わられつつあり、求職者を脅かしています。
若者が仕事に就けないと何が起こる?
若年層が定職に就けないことは、予想以上に影響があるようです。
【ロストジェネレーション】
若年期の失業は、その後何年にもわたり給与水準を下げる傾向があり、ひいては生涯賃金が下がってしまう「Wage Scarring(傷ついた賃金)」の可能性があります。いわゆる機会を損失した「ロストジェネレーション」 を生むリスクです。また、頑張っても職に就けないことでメンタルへの影響も見過ごせません。
【社会への影響】
若年層がスキルを蓄積できないまま社会に出ると、技術力が落ちたり、スタートアップの創出力が弱まります。経済の将来を担う次世代の基盤が脆弱になり、国際競争力が落ちるリスクがあります。また、若者の収入減は、税収の減少や社会保障費の増大に繋がります。そして、将来に不安を感じて、結婚や子どもを持つことを諦める人が増えます。
親は何をしたらいいのか
社会が若者を支援するシステムを作るのはもちろん大事ですが、親も、子どもが経済的にも自立できるように早いうちから指導する必要があるでしょう。「自分が学生の時は働きながら学費を工面した」などという説教は昔の話です。
需要のある分野を見極めて進路情報と選択肢の提示、職歴に書けるボランティア経験の蓄積、外国語やSTEM、ICTリテラシーを育てる教育、そして、とても大事なのはネットワーキングの構築です。わが家の20代の子どもたちは定職に就いていますが、就活時にこれほどネットワーキングの大切さを痛感したことはありません。日頃からいかに人との繋がりが大事かを教え、誰に対してもフレンドリーに接することを励ますと良いでしょう。特に親の友人知人は、どんな企業と繋がっているかわかりません。まだティーンエイジャーだから大人と会話もしないようでは、将来のネットワーキングには繋がりません。
*カナダの失業率の対象は正社員・パートタイムの両方です。
https://www.kingstrust.ca/wp-content/uploads/2024/11/TKTC-Deloitte-Report-Failure-to-Launch-Final-1.pdf
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