第72回「カナダの数学教育が危ない」|カエデの多言語はぐくみ通信
2025年5月~6月に実施され同年12月に発表されたオンタリオ州学力調査(EQAO)の結果を巡り、「数学教育の危機」とも言える状況が浮き彫りになりました。子どもたちの数学力が落ち込みすぎだというのです。
2025年のEQAOの結果
ポール・カランドラ・オンタリオ州教育相が沈痛な面持ちで、EQAOの結果は期待した伸びを示さず、特に数学の結果が良くないと述べました。数学は他教科と比べても生徒の達成率が低く、小学3年生では約64%の生徒が基準に達したが、小学6年生ではほぼ半数しか基準に届いていないという深刻な状態です。高校1年生においても58%程度にとどまり、全般的に基礎数学力が十分でない傾向が見らます。
数学力の低下はオンタリオ州だけでなく、カナダ全体の問題でもあります。15歳で受けるPISA(OECD学習到達度調査)では、2018年から2022年の間に数学力が15ポイントも低下しています。
カナダに教育移住で来られる家族は、子どもの基礎的な数学力を家庭で補助する方法を考えてから来られたほうがよいでしょう。
数学力低下の理由
子どもたちの数学力低下の原因として、コロナ禍による指導不足がまず挙げられますが、オンタリオ州においては、政府が十分な予算を教育に振り分けていず、約63億ドルが不足していると言われています。2018年以降、生徒1人につき年間1500ドルの予算がフォード政権によって削られたと教師たちは訴えています。
資金不足は教師不足に繋がり、教師が足りないと1クラスの生徒数が増えて教師のオーバーワークや指導不足が起こります。また、先生が専門でない教科を教えることもざらで、子どもが十分に理解できないことになります。
カナダの数学の指導理論は日本とは大きく違っています。子どもたちが小学生の頃、現地校の数学の指導内容が観念的すぎて、親の私には何を教えようとしているのか理解できませんでした。これは、「発見学習」といって、論理的思考力を着けることが狙いとされており、日本の、手順や考え方を明確に教える「明示的指導」の反対側に位置します。日本では九九を暗記できるまで指導しますが、カナダでは自分で掛け算の方法を見つけないといけないのです。小学生で計算機を使わせることも、自力で計算ができない要因になっているように思います。
認知科学の研究者は、未学習の考えについて生徒が自力で推論することは無理だと言っています。使える基礎知識がないからです。これは、外国語学習方法を知らない日本の文科省が、完全英語での指導に舵を切ったことに似ています。生徒に英単語や英文法の基礎力がないのに発話することは土台無理なのです。
また、カナダで小学校教員になるには、大学で教員免許を取りますが、特に数学に特化した授業は取らなくてもよく、教員採用試験というものがありません。高校1年生レベルの数学を履修しておけば、その後先生になるまで特に数学を勉強する必要がありませんでした。そのためか、娘が小学生の時に、担任の先生が算数指導に苦手意識があるように感じました。娘は「先生よりお母さんに教えてもらった方がよく分かる」と言っていました。
現在、オンタリオ州は、教師資格取得に数学の能力試験を課しています。2021年に最初の試験が実施され、約95%の受験者が合格するほど難しいものではありません。試験に反発する教師候補者団体が裁判を起こし一時中断し、2025年から復活しています。
数学力が弱いとどうなるか
カナダで仕事をしていると、同僚たちが数字や計算に弱いことに気付いている人は多いと思います。簡単な掛け算や暗算ができず、表計算の数式を理解できない人が普通にいました。
数学が苦手なままだと生徒の自己肯定感が下がったり、低い成績によって高等教育への進学が困難になり、キャリアの選択肢が狭まる可能性があります。個人的な影響だけでなく、ビジネス、医療、公共政策など、様々な分野で統計的思考や問題解決能力のある人材の不足を起こし、理系への進学を諦め科学やテクノロジーの発展が遅れるなど、社会全体に広範な負の影響を及ぼします。
今後の施策
カランドラ教育相は日給1500ドルでアドバイザーを複数の教育委員会に派遣するとしていますが、現場は、アドバイザーより教師を増やしてくれと悲鳴に近い声を上げています。
一方、良好な成果が見られる学区があります。ナイアガラの公立学区やカトリック学区では、2025年のEQAOにおいて、数学を含むすべての科目で州平均を上回る成果を出しています。コロナ禍前からすでに改革を始めていて、それが今回の好成績につながったようです。取り組みには、教師へのトレーニングや早期介入型の学習支援などが含まれています。
まず、教師が数学を教えるには、質の高い専門能力が必要であるという認識が必要です。ナイアガラの教育委員会は、教師向けに大学レベルの数学コースを提供し、費用は委員会が負担しました。2000人以上の教師がすでにこのコースを受講したそうです。
数学教育には明示的学習が必要不可欠であると、教育長のキム・キニー氏は述べています。これは、段階的な説明、早期のフィードバック、そして明確なモデルを用いて生徒に理解させるアプローチです。
日本は、2022年のPISAの数学において、シンガポールやマカオ、台湾、香港に続いて世界5位でした。他国は分かりませんが、日本の明示型や暗記型の数学指導法も全く間違っていたわけではないようです。(私は、サイン、コサイン、微分、積分は未だに分かりませんが)。
最後に、カナダの数学教育には、ナイアガラ地域のような成功例に学びつつ、教育現場、行政、保護者が協力して実効性のある改善が急務でしょう。
【参考】 Globe and Mail, January 10, 2026, “Niagara boards’ math strategies may be a lesson for Ontario”
https://www.theglobeandmail.com/canada/article-eqao-niagara-school-boards-math-scores-education-calandria/
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