第71回「同窓会って楽しいのだろうか」|カエデの多言語はぐくみ通信
日本人には理解しにくい事象として、北米には先住民の血が流れていないのに先住民であると、故意あるいは過失で名乗る人がいます。なぜでしょうか。
夫は先住民の孫?
私の義母はイギリスでアメリカ兵の戦争の落とし子として生まれ、父親を知らずに育ちました。夫と結婚した時以来ずっと、そのアメリカ兵は先住民(インディアン)だったと聞かされていましたが、義母や、そのアメリカ兵の孫である夫やその兄弟が、私には白人にしか見えないので不思議だったのです。
近年のDNAによる親戚探しで、すでに他界した父親は白人だったことが分かりました。義母の生前の父や異母兄弟たちが、アメリカで楽しそうに暮らしているYouTubeビデオを観ましたが、どの人も完全な白人でした。やっと謎が解けたのですが、なぜ義母の母親はそんな嘘を教えたのか、すでに亡くなっているので尋ねることはできません。
そんな疑問を持ち続けた時に、アメリカ先住民の父を持つとされている作家のトーマス・キングが、実はその認識は真実ではなかったと発表しました。この機会に私が感じていた謎の答えを探してみました。
プリテンディアンとは?
プリテンディアンとは、先住民の子孫ではないにもかかわらずなりすまし、その立場や権威、利益を得る人を指す揶揄的な言葉です。ただ、なりすましには、意図的である場合と過失の場合があります。
典型的なプリテンディアンにグレイ・オウルがいます。彼はイギリス生まれの白人で、カナダに渡り、故意に母親がアパッチだったと偽り、インディアンの風貌で自然保護の執筆や講演を行いました。死後その正体が明らかになり、文化的盗用の象徴的存在となりました。
前述の トーマス・キングはアメリカに生まれ、チェロキー族の血をひくとしながらカナダに在住して作家活動をし、文学の教鞭をとり、カナダ勲章も受けています。2025年11月に、自ら先住民ではないらしいと発表しました。彼の場合、家族を捨てた父親について母親が嘘を教え、それをずっと信じていたようです。出自について証拠がないとの疑惑に答えを出すために自分で調査しました。
有名歌手の バフィー・セントマリーは長年先住民として活動してきました。カナダのサスカチュワン州でクリー族として生まれ、アメリカ・マサチューセッツ州の白人家庭の養子になったというのがストーリーです。彼女の出自について、カナダCBCが2023年にドキュメンタリーを作成。バフィーの兄が生前、彼女は養子ではないと公言すると、彼女から、子どもの頃に兄から性的虐待を受けたと公表するという内容の手紙が送られてきたり、彼女がマサチューセッツ州で生まれたことを記す出生証明書が見つかったという内容です。その後、カナダ勲章やジュノー賞授与が抹消されました。
他にも多数の有名人が、先住民であると偽っていることが確定したり、現在も疑惑の中にいます。
プリテンディアンとなる理由は?
理由はいくつかあるようです。
第一に、制度的利益です。税金、大学入学や奨学金、就職、芸術や出版、助成金などで、先住民のアイデンティティが優位にはたらく場合があります。カナダでは公的な書類や申込書には先住民かどうかを問う質問があります。北米では、意図的に嘘をついてその利益を得ようとする詐欺行為が後をたちません。
第二に、発言の正当性です。環境問題や先住民への不当な扱いなど、著書や歌、講演で当事者として語ることで、批判されにくくなり、共感を呼びやすくなります。先住民のアイデンティティで売り出すことで人気が出た人は、後戻りできなくなる状態になります。
第三には、義母のように親から嘘を教えられることです。父親がいないことは数十年前の社会では大きなハンディキャップであり、アメリカでは白人と黒人の婚姻は処罰の対象でした。一方、先住民の子孫であるというストーリーにはロマンがあり、子どもに「嘘も方便」として語られた可能性が高いのです。このような嘘を教えられた子どもはたくさんいるようです。
先住民への影響は?
影響は深刻でしょう。最も大きな損害は、プリテンディアンたちが本来先住民に与えられるべき機会を奪うことです。また、先住民の真意の声が通りにくくなります。故意や過失によって先住民と偽った有名人には、素晴らしい作品を作り出す力があります。しかし、彼らが得た地位や名声、報酬に、先住民のアイデンティティがプラスに働いた可能性は消せません。
先住民たちは差別や貧困、暴力やドラッグに現在も苦しんでいます。彼らが受けるわずかな優遇措置をも部外者が奪う行為は糾弾されるべきです。生涯嘘を貫き、外見を偽り、家族や親族にも嘘を強要する人たちのメンタリティーには驚かされます。
今後は難しい?
昔は嘘が通りやすく、それを確かめる方法も乏しかったので、先住民のアイデンティティを盗みやすかったのでしょう。しかし、詐欺行為の横行により、近年、政府や司法、コミュニティが対抗措置を取り始めました。
カナダでは、登録制度やコミュニティーのメンバーシップ制度、政府や教育機関の優遇措置審査の厳格化や詐欺行為の処罰化などがあります。ただ、「誰が先住民で誰がそれを認めるのか」「部族によって考え方が違う」などの問題もあります。
プリテンディアン問題に対する意識が高まることで、詐欺行為が減ることを願ってやみません。
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