第76回「オーバーツーリズムが映し出す日本の30年」|カエデの多言語はぐくみ通信
「安い」「綺麗」「美味い」「早い」と四拍子揃った日本に外国人観光客が押し寄せています。少々複雑で、単純な構図ではありませんが、このオーバーツーリズム問題の根本原因を考えてみました。
迷惑外国人旅行者が増えた?
有名観光地では公共の乗り物が混雑したり、一部の不道徳な外国人観光客が鳥居にぶら下がったり、私有地に入ったり、はたまた、閉山中の富士山に無断で登り立往生して救助されるなど、観光地に住んでいる住民には気の毒な状態になっています。
止まらない円安とSNSによる「日本はいいぞ~!安いぞ~!美味いぞ~!」の発信によって外国人が大挙して押し寄せています。私のような海外在住者も、日本への一時帰国時にすべてが安く感じて、「やっぱり日本楽しい!」と滞在を満喫していることでしょう。
もちろん外国人が日本に興味を持ってくれるのは歓迎なのですが、「安い日本」というレッテルに、バブル世代の私は違和感を覚えます。昔は日本文化などに興味のある人が行く国だったのに、今ではどんな庶民でも気軽に行ける国になってしまいました。ほとんどの外国人旅行者はルールを守っていても、中には不届き者が混じるのも当然と言えば当然です。
海外資本が日本の不動産を買い漁り、京都や大阪の有名な市場には高価串刺し和牛を売る店がずらりと並び、地元民が行かなくなりました。目抜き通りのルイ・ヴィトンの店頭には外国人が列を作り、日本は爆買いできる国となりました。日本の様子がどんどん変わっていきます。
昔は外国人には高かった日本
バブル期の1980年代から2010年代前半までは円高傾向の時期が多く、日本は外国人にとって旅行するには高い国でした。私も、日本在住時は海外旅行を安く感じ、カナダに移住してからは、日本への一時帰国時には「日本高いなあ」と感じていた1人です。
当時の日本は輸出大国で、トヨタやソニー、パナソニックの日本製品を買うために円が買われていました。リーマン・ショックなど世界経済が不安な時でも、日本経済の安定性が買われ円高を維持していました。
1990年代に円高対策として、日本の自動車、電子、機械などの主要産業が工場を海外移転させ、産業の空洞化が顕著となりました。企業は、現地生産・現地販売に切り替え、日本にあるのは本社と開発部門、高度な技術が必要な工場のみという形態が主流になりました。日本に工場のある会社も、ロボット化や非正規社員の利用で人件費を節約しています。少子化による人手不足の現在でも、非正規社員の利用が高止まりの状態となっています。
異常な低金利・円安・株高
橋本龍太郎が始めて、小泉純一郎と竹中平蔵が拡大した労働規制緩和は、安い労働力確保のため、経団連を先頭に企業が要求する派遣制限の撤廃を実現し、非正規労働者を正社員にすることなく永久に安く使うシステムを作りました。非正規社員の割合は1995年は2割だったのが、2025年には約4割(女性や高齢者のパート増含む)になりました。労働者全体の実質賃金も30年間上がらず、貧富の差や富の二極化が現実となり、非正規労働者は、結婚や子どもを作ることも諦めなければならなくなりました。
バブル崩壊後のデフレ解消を目的に、1999年にゼロ金利政策が取られました。その後も、アベノミクス下で、マイナス金利や国債購入による大規模な資金投入を含む金融緩和が進められ、円安や株高を通じて企業収益の拡大が図られました。特にアメリカとの金利差などで円安基調になり、日本政府はそれを容認し、輸出企業が恩恵を受けるようにしました。企業が潤えば雇用が安定し、賃金が上がり、庶民にも恩恵がトリクルダウンするという計画でしたが、予想は外れました。企業の業績は伸びたが、余剰利益(内部留保)を貯め込むだけで、賃上げや国内での設備投資にはあまり使わず、2024年度の経常利益は約115兆円、内部留保額も増え続け約638兆円という過去最高額を更新しています。
企業は海外市場で得た外貨を安い円に換算すると業績がいっそう上がりました。円安は株価を押し上げ、株を保有する富裕層をますます豊かにし、純金融資産1億円以上を持つ富裕層の割合は3%と増加中で、5億円以上の超富裕層も増えています。一方、円安と低賃金により、エネルギーや食料品、日用品を輸入に頼る日本の、低所得者層や中小企業は物価高騰に喘いでいます。日本の相対的貧困率は15%台でG7内でも高水準で、クロアチアやメキシコと並ぶ貧困率です。
日本は失業率が2%台とたいへん低いですが、それも注意が必要です。月末の1週間に1時間でも働いた人は就業者と見なされ失業率に入れられず、休業者や正規雇用を断念した人も失業率にはカウントされません。ですから、低い失業率にも関わらず生活が楽になった気がしないのです。
日本は、大企業や富裕層はより豊かに、非正規労働者や年金受給者はより貧乏になる社会構造になってしまいました。
30年放置のツケ
今の日本のオーバーツーリズムは、元を辿れば、バブル崩壊やリーマン・ショック後のデフレ経済立て直しの失敗と、企業利益優先政策の結果である「安い日本」の姿です。停滞する経済成長、少子高齢化、貧困率の増加などの日本が抱える問題は、日本人のある一連の性質に通じているように感じます。
「日本人は変化を嫌い、失敗を極端に恐れ、たいへん忍耐強い。」
失われた30年間で日本人や企業が守り一筋に陥ってしまい、教育水準は高く、ノーベル賞も取れるほどの才能を有しながら、なかなか画期的な産業イノベーションに繋がっていません。残すべき日本らしさと、壊すべき既存概念。その両方を今見極めないといけないでしょう。
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