スペシャル対談 グローバルな美容業界で活躍する異職種の友人だから熱く、ホンネで語り合える、世界の美容の面白さ!!!
タカラベルモント カナダ支社 社長 永川 源さん × ヘアサロンbespoke オーナー 林 弘和さん
理美容及びデンタル・メディカル業界において、世界中で高い認知と評価を受けているタカラベルモント社。社名を聞いてもあまり馴染みがないかも知れないが、日本では誰もが一度は理容サロンや美容サロンで、そして歯科医院などにおいて同社の製品に触れたことがあるはずという、知られざる業界のトップメーカー。 3年前に赴任して以来、現地社長として活躍されている 永川 源 さん(以下、Noriさん)。一方、世界的有名サロンTONI&GUYにて長年、クリエイティブディレクターとして活躍し、2011年に一緒に働いていた(イタリア系、ポルト ガル系、ベトナム系と)それぞれのバックグラウンドの異なる3人のカナダ人女性トップスタイ リスト達と salon bespoke をオープンした、林弘和さん(以下、Hiroさん)。毎日マルチカルチャーな文化に触れつつも、日本で培った細かな気配りと長年の経験による技術で、常にグローバルなお客様の心を掴む、トロントで活躍する日本人美容師だ。
今回は、同じ美容業界の中で理美容機器を作る側、また現場にて理美容機器を使う側という関係のお二人に、カジュアルな雰囲気でお酒を交えながら熱く語って頂いた。
-20世紀はモノの時代。21世紀は「心の時代」。
Noriさん 経済の成長に伴い生活が豊かになった21世紀の現在、人々の『心』を動かすのはモノから付加価値の高いサービスへ移り変わりつつあると思うのです。
Hiroさん おっしゃる通りですよね。日本が西洋に誇るのは気配り、サービスなどソフトの面だと思います。今後成長していくには、製品ではなくサービスや技術を充実させていくことが鍵になって来るのではと思います。
-西洋と日本で感じる違い。
Hiroさん 日本にはハグやキスの文化が無い分、パーソナルスペースを大切にする傾向がありますよね? でも、こっちはいい意味で距離が近くて、シャンプー台やイスとイスの間隔が近く、隣り合ったお互いを知らないお客様が突然会話を始めるなんてこともしばしば。これには初め驚きましたね(笑)。
Noriさん 確かに、お客同士がそんなに近いって日本じゃあんまり考えられないですよね(笑)。その関係もあって、西洋と日本のサロンとではまずレイアウトや空間作りにおける違いが見られますね。次にサロンで働く人の社会的ステータスや仕事に対する姿勢に大きな違いがあります。日本では理美容師は専門教育を受けて国家試験にパスしないとなれないけど、海外では宣言さえすれば明日からでも美容師になれる国が多くて(笑)、カナダでも州によっては未だに資格を必要としません。他には、そこに住んでいる人々の髪質もそうなんですが、美容に対するこだわりそのものに大きな違いがありますね。日本人の髪は平均すると直径が0.08ミリぐらいなのに対して西洋人は0.05ミリと細く、その分日本人の毛量は10万本なのに対して西洋人は14万本と多い。西洋人の髪は弱そうに見えるんだけど、実はキューティクルの層が日本人の倍くらいあって、ダメージには結構強い。だから、日本と海外のメーカーが販売しているカラーやパーマ剤の薬剤成分には大きな違いがあります。 西洋人は羨ましいことに顔の輪郭や頭の骨格が良いので無造作なヘアスタイルでも格好良く見えますが、日本人の髪をデザインするには確かな技術とセンスが要求されます。だからお客様のこだわりも強いものがあって注文も多いですよね。(笑)
Hiroさん 確かに、東洋と西洋では髪質もトレンドも全く変わってきますからね…(苦笑)歴史上では、髪を切るという技術は割と最近なんです。世界的に現代美容の基本カット技術は、ヴィダルサスーン氏が考案した「サスーンカット」だとされています。ただ、あくまで世界に広がった基本技術であり、その後、日本では髪質の違い、文化の違い、その時の流行によって、更に細かい技術によるアレンジが加えられたのが現代のスタイルと言えるのではないでしょうか。例えるなら、髪のすき方やレイヤー等、日本には独特のカット技術の進化があったと言えると思います。
-スタイルの需要
Noriさん そういえば、同じヨーロッパでも北欧の女性は短いヘアスタイルが割と多くて、南の方に行くほど髪が長くなるという傾向があります。だから髪の長さに合わせて地域毎に流通するシャンプーユニットのボウルの深さや幅には違いが存在します。また、同じアジアでも日本では「ゆるふわパーマ」を中心に「かわいい」のがトレンドだけど、中国、韓国では女性らしいセクシーなスタイルを好む傾向がありますね。
Hiroさん それがクリエイティブの面白いところですよね。 ただでさえマルチカルチャーなこのトロントで、最初に僕が選んだサロンのTONI&GUY がホントに世界中に展開するサロンだった為、毎日いろんな国籍/人種の髪を切りました。やっぱり最初は、それぞれの国の「感覚」や「テイスト」を理解して施術するのは簡単ではなかったけど、、僕自身すごく勉強になりましたし、面白かったですね。僕個人的には、そういう点で美容師の仕事は料理人と共通するところがあると思います。 お客様の好みに合わせてクリエイティブな仕事をするのは、常に驚きと楽しみの連続ですね。
Noriさん 世界のパーマ需要はほんの2パーセントにも満たないと言うデータがあるんですけど、その需要のほとんどはアジア圏なんですよね。だからワインディングという髪をロッドに巻きつける技術って日本の美容師さんは当たり前にできるけど、実は欧米の美容師さんは殆どパーマが巻けない(笑)。
Hiroさん 確かにそうかもしれないですね(笑)。日本人は西洋人のようなゆるいカールのふんわりしたスタイルにしたいっていう要望が多いけど、逆に西洋人はアジア人のようなストレートに憧れる人が多いですしね。
Noriさん 結局、お互い無いものねだりなんですよね。(笑)
-日本人の美意識
Hiroさん 日本人はとにかく美意識が高いですよね。日本の街を歩いている人を見てもみんなすごくきちんとしているし、日本人の多くは一人一人が自分のスタイルを持って、美容に時間とお金をきちんと費やしている。美容室に行く頻度も外国と比べて高いです。
Noriさん 髪や肌の手入れは時代や国、民族、性別を超えて全ての人にとって欠かせないものですけど、サロン件数といい、人口比率といい、日本が世界の最大マーケットであるという事実は我々日本人の美意識が高いことの表れなのかも知れないですね。
-現場の声をもとに開発する
タカラベルモント社のシャンプー台
Noriさん 以前は「サイドウォッシュ」といって美容師さんがシャンプー台の横に立って腰をかがめながらシャンプーをするスタイルが主流でしたが、この施術方法は腰にかなりの負荷がかかります。体への負担を少しでも軽減し美容師さんが一日でも長くキャリアを続けられるように、「バックウォッシュ」スタイルのシャンプーユニットやシャンプーベッドを開発し、癒しのサービスが受けられる「ヘッドスパ」という技術やサービスメニューまでも開発し普及活動を行ってきました。僕もその一員としてやってきたので、実はシャンプーテクニックにはかなりの自信があります。(笑)ほかには世界初の全自動洗髪機なんてのもあります。
Hiroさん 本当にサイドシャンプーは腰がキツイんですよね。それが原因で腰痛が悪化し、美容師を辞めていった先輩や同期もいるくらい。僕も自分と相性が悪いシャンプー台があったサロン勤務時は腰痛がかなり悪化して寝ていても痛く、勤務中はコルセットを服の下に着用してました。
シャンプーを休みたくはないが、腰を痛めて大好きな美容の仕事ができなくなるのもどうかと、当時は悩んだ事もありました。
Noriさん でも、ヘアサロンで受けるサービスで一番気持ちがいいのはシャンプーのときですよね。 欧米のサロンだと2-3分で終わるのが普通で、耳に水は入るし、顔に水はかかるし、お湯がでなくて冷たい水で洗われるし、タオルドライをしっかりしないから服が濡れるなんてこともある。シャンプーブースはお金が取れないという考えが根底にあってオーナーもそこには力を入れない。日本では生産性があろうがなかろうが、手は抜かない。だから、その価値や良さを見いだす機器を開発して、美容師さんの想いに応えるのが我々の役割だと感じています。
-トロントから発信する。
Hiroさん うちの美容室はスタッフのご両親が移民系カナダ人なこともあり、僕らもほぼ全員が2カ国語話しますし、僕はスペイン語も話します。ですので、お客様も 非常に国際色豊かですね。一日で何カ国語聞くんだ!?ってことがあるくらいに、色んな言語が飛び交うような職場です。今後も移民が増えていく中で、人口は引き続き、トロント/GTAを中心に広がるのでないかって思ってますね。
Noriさん そうですね。でもトロントは他の大都市圏に比べて在留邦人の数が多いわりに日本のサロン数がとても少ないですね。日本のおもてなし精神と確かな技術力は、世界各国の名だたる有名サロンで活躍する日本人ヘアスタイリストが多いことを見ても、世界に通じるものがあることを証明しています。日本にはモノ作り以外にも、世界に誇れるものがたくさんあります。自信をもって出店してもらいたいですね。その際にはぜひとも当社へご用命ください。(笑)
Hiroさん 美容室を海外展開するには、その土地のスタイルを理解して対応する柔軟さも求められますよね。日本人美容師の高い技術や気配り精神を気に入って、他の国や都市からトロントに移ってきても日本人美容師を求めて来店してくださる欧米人のお客様もいらっしゃるんです。それは他の国、都市で活躍する日本人美容師達のおかげであり、 僕もその一人でありたいし、世界中の日本人美容師が各国、都市で評判を上げて、我々のハイ・クオリティを証明するというこの動きをぜひ今後も活発にしていきたいですね。
-美容と健康に関る仕事は面白い
Noriさん 美容と健康に関する仕事は本当に面白い。
Hiroさん 人対人の仕事だから、感情もあるし、そこにあるパッション(情熱)も直接感じる事ができる。
Noriさん 物質的な欲求は金銭的に解決することができるけど、精神的な欲求はなかなか満たされない。だから美容と健康に対する人々の追求心に終わりはありません。
Hiroさん 僕らのような現場の人間の働き易さとか効率とかを実際にサロンに足を運んで、現場の声に応えて製品を開発してくださる。これは単にモノ作りの域を超えていて、理解が無ければ成立しないんです。永川さんのような方がトップでいて下さる限りは、僕ら現場の人間も心強いし安心して、現場で働けますね。
Noriさん 僕は今でも現場の第一線で働くことを心がけています。現場が見えてないと経営判断に支障がでるということもありますが、何度もキャリアを変えて美容師になりたいと思ったほど美容に関する仕事が好きで興味が尽きないからかも知れません。世界中のサロンを見てきた経験を活かして、理美容業界の潤滑油となり業界の発展に役立ちたいといつも考えています。
取材協力=今年1月にリトルイタリーにオープンした沖縄発の居酒屋&らーめんをウリにした”りょう次”。沖縄の郷土料理はもちろん、本格的なとんこつらーめんまで味わえる同店は多くの日本人ならびにローカル層の支持を得ている。
永川 源さん
1970年生まれ。小3の時に観た映画『スーパーマン』に感化されて異文化に強い感心を抱くようになる。 Alliant Int’l大学を卒業後、金融機関を経てタカラベルモント(株)に入社。国際事業部 アジア・オセアニア地域営業、 英国駐在を経て、2009年よりカナダ法人社長。趣味は旅行、ヘアカット、テコンドー、ゴルフ、スキー。特技はハサミの研ぎ・調整。
林 弘和さん
1979年生まれ、名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。若い頃から憧れた、NYのサロンや Vidal Sassoon からの誘いを断り、世界中に展開するサロン TONI&GUY(トロント店)へ就職。1年目から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再び、トロントのTONI&GUYへ復帰。クリエイティブディレクターとして活躍し、北米Top10も受賞。2011年に salon bespoke をオープン。