日本酒・焼酎・泡盛などの『國酒』を醸す私たちが消毒用の高濃度アルコールを製造|東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い【第95回】
新型コロナウイルスの被害が世界に広がり、世界中が今ウイルスと戦っています。日本では強制的なシャットダウンが憲法上出来ないこともあり、「緊急事態宣言」を政府が出し、それに伴い自粛の「お願い」を続けていました。
新型コロナウイルスの被害が広がって、一番困るのが医療機関です。通常の医療も受けられなくなり、コロナが院内感染すれば、救う方のお医者さんや看護師さんも感染してしまい、病院での医療がストップしてしまいます。実際に、日本でも医療機関で院内感染が起きてしまい、医療提供がストップしてしまったこともありました。今回の新型コロナウイルスとの戦いで、最前線で戦っているのは、まさにこのような医療機関への医療従事者の皆さんであり、自らの感染のリスクを知りながら、懸命に戦ってくれています。
しかし、その医療関係の皆さんから悲鳴のような声が私には聞こえてきました。「消毒用のアルコールが不足している」新型コロナウイルスはアルコール殺菌をすることで死滅します。医療関係の皆さんは日常的に今までも消毒アルコールを使って消毒をしていましたが、コロナの大流行により、医療機関に消毒用のアルコールがまわらなくなっていたのです。厚生労働省も努力をして医療用のアルコールを供給するために全力で頑張っていますが、大流行により物理的に供給が難しいことがわかりました。
ふと考えてみたら、私たちは日本酒という「アルコール」を扱う会社であり、アルコールをつくるための免許もあります。しかし、日本酒は高濃度のアルコールではありません。私たちの持つ免許も日本酒を製造する免許で、高濃度のアルコール商品を製造する免許ではありません。そんなジレンマを抱えていたら、厚生労働省が「酒造会社が製造する高濃度アルコール商品を医療機関の消毒に使っても良い」という異例の緩和通達を出しました。そこに重ねるようにアルコールの製造免許を所管する国税庁が「消毒用のアルコールの製造に関して大幅な免許緩和を行う」と通達を出し、さらに、高濃度アルコールは危険物にもなりますので、消防庁のほうでは「消防法の迅速かつ弾力的な運用を地域でする」という通達まで出て、日本各地の日本酒、焼酎、泡盛などの「國酒」を醸す私たちが消毒用の高濃度アルコールを製造することが制度上出来るようになりました。あらためて、厚生労働省、国税庁、消防庁の皆さんには迅速な緩和決定をしていただき心から感謝申し上げます。
そうなれば、私は目の前で困っている人がいて、その人を素通りして通り過ぎることが出来ません。即座に「消毒用アルコールを製造する」と宣言をして、走り始めました。私たちには医療用のサージカルマスクや防護服などは製造出来ませんが、アルコールなら製造出来ます。いや私たちにしか消毒用アルコールは製造出来ないのです。アルコールを製造する免許を持つ義務と責任と使命において、今目の前で困っている人を救うために立ち上がりました。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人 / http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元 東京農業大学客員教授
久慈 浩介
岩手県の銘酒として知られる「南部美人」は、カナダ・トロントでも味わうことができる日本を代表する酒蔵で、2011年3月11日の東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。5代目である久慈さんは震災直後から日本酒を通じて地域復興の様々な取り組みを行ってきた。本連載では久慈さんが体験したことや復興の取り組みなどを寄稿してもらう。