伝統の道を拓く⑥|金継ぎ開拓民のお茶休憩
これは、ゼロからの試みでした。金継ぎを知っている人がほとんどおらず、日本の伝統に触れる機会もほとんどない環境で、金継ぎや日本文化について日本人と同じ目線で語り、実践し、伝統工芸や文化の保存に協力してくれる人を増やすにはどうすればよいのでしょうか?
この地で唯一の金継ぎ師であるということは、私の発信することがカナダ東部に暮らす人々が受け取る最初の「生の金継ぎ情報」になります。つまり、私にはこの地における金継ぎに対する認識と文化、そしてその質の基準を作る責任を担っていることになります。
そのため、発信する内容やその方法は一つひとつ熟考を重ね、「金継ぎの価値を保つ」「文化的側面を強調する」「日本人の視点で語る」という3つの方針を主な軸としました。
金継ぎの価値を保つ
金継ぎの市場的な価値を築き、保っていくことは、金継ぎや漆芸の作家が専業として生計を立てられるようになるだけでなく、素材や道具を供給する人々に経済的な循環を生み出すことにもつながります。
漆畑の管理人、漆掻き職人、漆掻きの道具職人、筆職人、刷毛職人――彼らは日本の伝統工芸を支える不可欠な存在です。しかし、作家以上に後継者が少なく、収入も限られ、技術の継承が危ぶまれています。
作家が十分に収入を得られなければこうした職人たちにも報酬は回らず、次世代に職業の選択肢として検討される可能性も低くなってしまいます。そのため、お金を生み出せる市場を育てることが重要だと考えました。
実はコロナ禍、家族も友人もいないカナダで、金継ぎと日本文化について説明し続けることに疲弊した時期がありました。当時、安価に金継ぎを請け負ったり金継ぎの技術を教えたりしていれば、社会とのつながりはもっと簡単に得られたかもしれません。それでも、漆芸を支える人々に正当にお金が還元される市場を作ることを考えると、安売りだけはできませんでした。
今では彼らを積極的に支援できるだけの収入を得られるようになり、新しく漆を使う金継ぎ師が現れても、専業として十分生活できるだけの市場が整いつつあります。小さな信念の積み重ねが形になり、報われたようで誇らしく思っています。
次号では、金継ぎの価値を左右する正統性と品質についてお話します。







