【今月のネタ】「サーフクラム(青柳)」ニューベッドフォード から届く、大西洋の春|トロントの魚屋さんTaro’s Fishで編集長のちょっと立ち話|#トロントグルメ部|食の編集部
春になると、赤貝、とり貝、青柳といった“春の二枚貝”が旬を迎える。ただ、トロントで日本の貝をそのまま扱うのは簡単ではない。CFIA(カナダ食品検査庁)の輸入規制もあり、日本産の赤貝や青柳が気軽に並ぶ環境ではないからだ。だからこそ、Taro’s Fishで出会う東海岸産のサーフクラムには、特別な意味がある。いつものように裏口から顔を出すと、太郎さんが殻付きの大きな貝を見せてくれた。
「トロントに入ってくるサーフクラムの多くは、マサチューセッツ州ニューベッドフォードから届くんだよ。東海岸一帯で水揚げされるんだけど、僕にとって一番馴染み深いのも、この港町の貝なんだよね」
殻を開けると、身は厚く、つやがある。
「身が大きくて、甘みがはっきりしてる。しかも締まりがいい。僕は二枚貝の中でもかなり好きな貝だね」

20歳の頃のニューベッドフォード

「実はね、20歳の頃にニューベッドフォード行ったことあるんだよ」きっかけは、高知県土佐清水市との姉妹都市交流だった。現地のよさこい祭りに参加し、焼き鳥を焼いたという。
「港町の空気とか、潮の匂いとか、すごく覚えてるね。あの時に食べたクラムチャウダーも美味しかった」という。当時のトロントは、今ほど東海岸の魚が豊富ではなかった。日本からの鮮魚も限られていて、冷凍ハマチが主流だった時代だ。
「東海岸でサバとかサワラ、ヒラメ見た時は感動したよ」
その頃はまだサーフクラムとは出会っていなかった。しかし魚屋を始めてから、再びこの町の貝とつながることになる。
中浜万次郎と重なる港町
ニューベッドフォードは、土佐清水出身の中浜万次郎(ジョン万次郎)が青年期を過ごした町としても知られている。14歳で遭難し、ハワイを経てアメリカへ渡った万次郎。英語も文化も違う環境で学び、生き抜いた人物だ。
「僕も19歳でカナダ来た時、英語なんか全然だったからね。でも“万次郎は14歳だった”って思うと、本当にすごいなって思う」異国で孤独の中を前へ進んだ人。同じ高知出身として、太郎さんには強い尊敬の気持ちがあるという。
刺身、炙り、そしてスープへ
ニューベッドフォードでは、サーフクラムはフライやクラムチャウダーにも使われる。しかしTaro’s Fishでは、やはり刺身や寿司としての魅力が際立つ。
「軽く炙るといいんだよ。甘みと香ばしさのバランスがすごくいいから」表面をさっと炙ると、貝の甘みがふくらみ、香ばしさが重なる。噛むほどに潮の旨みが広がり、青柳らしい春の余韻が残る。そのまま寿司にしてもいいし、軽く炙ってサラダ仕立てにしてもいい。さらに煮汁は、澄ましやスープになる。
「東海岸には、まだまだ面白い食材いっぱいあるからね」
春から初夏へ。魚屋の店先には、季節とともに海の表情が並び始める。
“Enjoy the taste of the Atlantic.”
太郎さんのその言葉通り、大西洋の恵みを、ぜひ味わってほしい。

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